やおい評論(入門者向け)

信じてもらえないかもしれないけど、いわゆる商業BLをちょくちょく読むようになったのは、ここ数年のことだったりする。*1しかも、当初はやおい評論を読むための足がかりとして2次的に個別作品を検証するような読み方だった。
今でこそ大分作家買いする人とかも出てきて楽しんでいるけれど、最初は絶賛されている本を読んでもイマイチ楽しめなかったりしたので、全く「恋愛体質」が備わっていない私としては、やはりその手の素質もイマイチなのかな、と少し残念に思ったりもした。
その杞憂はすぐに打ち消され、今となっては、おお!これは!斬新!すげえ!おもしれえ!という、「漫画読みの快楽」の多くを、BL畑において見出している始末。大手出版社が才能のあるBL作家を必死で囲い込もうとしてるのもわかるよ。だって奇才鬼才の宝庫だもん。
これだけ多様な作品があると、「漫画としてみれば20点だけど、自分にとっては100点をつけたい!」とかいう事態がよくあるのが面白いところ。あと最初に読んだときは全然心が動かなかったのに、じわじわと好きになってくる、というスルメ書も多い気がする。何が自分にとって快感か、そのツボを探る喜びを知ると、なかなか止められなくなるのではないかなあ。
自然発酵*2の人たちはともかく、これから未知の領域に踏み出してみたい腐女子腐男子予備軍の諸氏は、まずは色々と流し読みしてみて、自分のツボの一冊を見つけるといいのではないかと思います。
ということで、私が所有していて、入門者にも読みやすく、おもしろいと思ったやおい評論系の本をまとめてみた。

ユリイカ2007年6月臨時増刊号 総特集=腐女子マンガ大系

ユリイカ2007年6月臨時増刊号 総特集=腐女子マンガ大系


ユリイカ2007年12月臨時増刊号 総特集=BL(ボーイズラブ)スタディーズ

ユリイカ2007年12月臨時増刊号 総特集=BL(ボーイズラブ)スタディーズ


私が道なきBL界に踏み入る前にまず読んだ2冊。ユリイカ様様です。執筆陣、内容の濃さ、どれをとってもすばらしい。中には少々首を傾げたくなる執筆者もいるけど、それくらいはしゃーないよな。やおい論集であり、ガイドブックなので、これを読んでから実作に挑むのもいいと思います。私はやおいを読む取っ掛かりとして、とりあえずここで言及されていた作家、作品で興味のあるものを片っ端からマーキングしてb∞koffにダッシュしました。(いやもちろん新刊も買ったよ)BL作家の対談とかも貴重。BLスタディーズには、やおい論史のまとめもあるので、研究資料としても便利だ。しっかし1年間にこんな内容の濃いやおい特集を2冊も出しちゃうとか青土社はアホなのか!?とりあえず、2012年くらいまでには、また新たに特集を組んでほしい。よろしくおねがいします青土社さん。

大人は判ってくれない―野火ノビタ批評集成

大人は判ってくれない―野火ノビタ批評集成


早熟のやおいエリート野火ノビタによる評論集。エヴァ論、冨樫義博論もかなり面白いけど、このやおい論は秀逸だと思う。精神科医も心理学者もわかっちゃいない、とばかりに、自らの心にメスを入れるその心意気やあっぱれですよ。非常にストレートで納得のいくものなので、これはもうやおい論スタンダードと認定してもいいんじゃないかなあ。ここでは詳細まで触れないけれど、短い文章の中に、BLを愛好する女性の心のありかたというものがすっきりとまとめられており超おすすめです。ジェンダーSF賞受賞作。

よしながふみ対談集 あのひととここだけのおしゃべり

よしながふみ対談集 あのひととここだけのおしゃべり


ティプトリー賞受賞BL漫画家よしながふみの対談集。まあやおい論ではないにしろ、BLに関する話題も多く、同人出身BL漫画家である彼女の分析は非常に鋭い。というか、よしながふみに関しては漫画読んでも思うけど、なんて上品でクレバーな才媛なんだ。ていうかBL作家って感覚的に高学歴の人多いよね。偏見かもしれないけど、読者にもわりとインテリといわれる層が厚いと思う。BL者は饒舌でないとならない。『同人誌は論文発表会、カップリングは「学説」』ということか・・・。コレを読んで、BLは恋愛を扱う少女漫画の進化系である、という解釈もアリだな、と思いました。あと、観念的に「やおい」という言葉を使うならば、男女間、女女間にも「やおい」と形容できるカップリングは存在する、という説が面白い。つまり、恋愛の質の違いであると。確かに今は、やおいカップリングにも「あれは百合だ」というような表現をする事があるよね。面白いですね。今は大奥の連載で忙しそうだけど、また純BLっぽい漫画も読みたいですよしなが先生。

シュミじゃないんだ

シュミじゃないんだ


腐女子直木賞作家三浦しをんによる、熱いやおいガイドブック。直木賞受賞コメントで「愛読書はBL」とか先輩素敵ですね。あくまでエッセイ+ガイドで、先輩の好みの萌語りが主なので、やおい論としては正直そこまで参考にはならない。が、もの凄い数のBLを読んでいる作者によって解説されるBLのパターン例を読んでいると、実作を読んでいなくても、なんだかBLにすごく詳しくなった気がしてお腹がいっぱいになるぞ。連載時期が古いので、ここ数年の新人作家とか勢いを反映していないけれど、基本的な考え方というのは変わっていないということがよくわかる。現在はこの連載をしていた時期より、さらにBL読者の年齢層が高い方へとシフトしており(もちろん新規読者も増えてはいるだろうが)この本で彼女が言っている「オヤジ」ものとかは当たり前になりつつあるんじゃない?いやジャンル全般の動向がわかるほど読んでないので推測に過ぎないけど。つまり腐女子も訓練されてきてレベルが上がってるよ、と。

やおい評論は相変わらず好きなので、久々に読んだことないのも読んでみようかな。中島梓とか読んでないし。

*1:ちなみにBL小説、BLCD、BLゲーに関しては、ほぼ未開発です

*2:自然発酵のパターンとして・10代で風木を読んで衝撃だった!→JUNE系のお姉さまとか・ジャンプ漫画おもしろいよね!→商業アンソロ→やおい同人誌の二大派閥まで推理したけど、他にも色々あるんだろな。私は加糖してイースト菌ぶち込んだような発酵のさせ方だったけど。