Swiss Army Man(原題)がこのBL映画がぶっちぎりで優勝2016である②

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前回↑の続きですが、中盤以降ラストまでの映画感想になるので、所謂ネタバレです。あと台詞の引用が(シナリオが本気で良すぎるので!)とても多くなりますが、適当訳ですので…。よろしくお願いします。

(´-`).。oO(あまりBLだBLだと連呼するのもちょっとやましいな、という気持ちがあったんですが、インタビュー記事などを漁っていたら、監督がgay necrophilia movieって言っているのを発見してしまって吹っ切れました(笑)いやでもゲイ屍姦映画というよりは屁こきBL映画くらいの緩さでいいと思いますけどね…

 

 

さて女装したハンク=サラと、マニーの恋愛ごっこ(ゴミから作った偽物の舞台セットの中で行われるごっこ遊びなのですが、本当の世界を知らないマニーにとってはそれは真実でしかない)が、映画におけるハッピーな面での頂点といっても過言ではなく、人生万歳!といわんばかりの幸せなモンタージュが繰り広げられます。でもその終わり方は、ハロウィンの仮想パーティー(木でできた人形に囲まれて…)を二人そっと抜け出して、ドキドキが最高潮に高まったロマンチックなキスシーン……未遂でありました。クッ……未遂……!!行け!あとちょっとだろ行けよ!!アーーーーーッッ!!と叫びましたし地団駄を踏みました。心の中でです。


「はは…飲み過ぎたみたいだ…///」というテンプレみたいな台詞で夢の様な時間は終わりを告げ、ハンクは再び現世への帰還に向けて脚を踏み出す決意をします。甘酸っぺーーわせつねーーーわ!!

完全に腐諸氏として語りますと、このバス〜ハロウィンパーティーの場面、バスで告白に成功し、二人の手が重なり合った辺りから、ハンクは完全にマニーに対して無意識かもしれないけれど恋をしていたと思うんですよね、一方でマニーはずっとサラを見ている。このすれ違いが滅法せつない…。

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次の冒険は谷底に河が流れる渓谷にかかった橋…というよりもただの金属パイプをマニー背負って渡ること。最初とは比べ物にならないほど流暢によく喋るようになった死体は、パイプが傾き、あわや谷底に真っ逆さま、という場面

「わあ、この感情は多分恐怖だ!今俺は確かに恐怖を感じているよ!もし俺が死んだら、お前に会えなくなるのかと思うと…」
「ああ…君は馬鹿だよ…」

そこからの水中に没する二人のシーンの美しいことといったらないんだけれど、これどうするのかなやっぱりアレをするのかな、と思って見てたら、あるよ!キスが!へいお客さん!キスお待ち!あんがとよ大将!!
いや本当に、この為の先ほどのおあずけだったのかと思ったら全部許せた。魂が救われた。最高です。本当にありがとう。
水底に沈みゆく二人のキスが、人口呼吸キス(未来少年コナンかよ)でもあるんだけど、やっぱり愛情のキスでもあるんだよ、という、撮り方、二人の表情がね、そりゃもう、愛に満ちていて…いいものを見させて頂いて感謝しかできないです。来世の徳まで前借りしている気分。

 


Swiss Army Man | You Don't Fart | Official Clip HD | A24

「家に帰ったら、俺はサラにどれだけ彼女を想っているか毎日でも伝えるよ。彼女の喉が渇けば俺のつばを飲ませてあげられるし、俺のオナラに乗ってどこにでも好きなところへ連れていく」
「…他の人の前でオナラなんかしたらダメだよ」
「なに?何でだ?」
「だからそれは…変だから。人は人のオナラが好きじゃないんだよ」
「だからお前は俺の前でオナラをしないのか?」
「いや僕は…一人でする方が好きっていうか…我慢するというか…そうすべきなんだ」
「そんなの悲しい…そんなの悲しいじゃないか。じゃあ何のために家に帰るんだ、それじゃまるで、帰ったら何も自由にできないみたいだ」
「うん…もしかしたら僕たちはここにずっといた方がいいのかもな」
「二度と家には帰らずに?」
「ここが僕らの家になるんだ。僕たちが僕たちのルールを作って、好きなことをする」
「ああ!バンドを組むとか」
「森のなかに家も作るんだ」
「いいね、ホームシアターシステムつきがいい」
「レコーディスタジオも?」
「そうだな、どんなに大声で歌ってもいいんだな」
「イェ~~~イ!」
「僕ら二人で!」

どうですかねこの怒涛のブロマンス半分オナラの話なのに美しすぎて息切れが…おかしいな?しかし同時に、嫌な、悲しい予感もします。この二人、異界から帰還すればすなわち二人で幸せにはなれないんじゃないかって…。そういえばショーン・オブ・ザ・デッドのラストのペグとフロスト、あんなのはずっこいわ!反則技だわ!普通はああはなれない。この映画も十分普通じゃないけれど…。そしてこの予感はおそらく正しい。悲しいことに。

もうここから先、本当に辛いか悲しいシーンしかないですからね…。覚悟を決めて。

次の熊シークエンス*1ではマニーの「失恋」を描く。キャンプを野生の熊に襲われたハンクが、撃退しようとマニーマシンガンを構えるが、マニーは<愛していた写真の女は自分には全く関わりのない他人でしかも夫がいる>という真実を知ってしまったために絶望し、弾丸を発射することができない。

「彼女はもう必要ない!僕たちにはお互いがいるだろ!」

熊に襲われながらハンクがマニーに叩きつけるように吐く台詞が本当にどうしようもない!それでも愛はすれ違う。マニーは親友の裏切り(マニーは今までスマホは自分のもので、サラは自分の生前の恋人だと信じていた)と失恋のダブルショックで人生に絶望し、次から次へと悪夢のような悪い考えを呼び起こしてしまいます。しかもそれが新たな能力となって、ハンクの脳内に直接フラッシュする、ちょっとした精神攻撃。

「ときに美しい思考っていうのは生きる希望になる。おそらくそれは生存の為に脳がした発明だよ」
「ああ、お前の脳が俺を創造したみたいにな、お前の眼球が瞬きをするのを止めお前の口が噛むのを止めお前の心臓は血液を送るのを止める、そんな事実から目を逸らすために!それからお前はウンコ漏らして、それでお終いだ」
「違う、違うよまだお終いじゃない。何故なら、僕の内臓もウンコ漏らすからだ」
「それでお前の細胞もウンコ漏らして、お前の漏らしたウンコは誰かの漏らしたウンコと混ざり合ってお前なんてどこにも存在しなくなるまでぐちゃぐちゃになって、それでお終いだ」
「わからないけどさ、それって何かいい感じじゃない?皆のウンコが混ざるんだったらいつか君のと僕のも一緒になれるって事だろ?それならそれで楽しみじゃないか?」
「お前キモいな…」

ここのやりとりも壮絶なんだけど。まず最初にマニーがハンクの妄想の存在にすぎないではないかという(メタな)疑惑をマニーに言わせちゃうんだ、という点。あとウンコの話しかしてなくてメチャクチャ汚いのにド直球BLで最高で泣けるという点。ぶっ飛ぶ。ハンク、愛が重いんですけど…。

でも、このクソミソ会話があったからこそ、その重い愛が伝わったのか、絶望に沈んで、『もう俺は”再び”死んでしまいたい』とすら思っていたマニーは再び力を得て、というかパワーアップして、熊に引きずられていたハンクを救います。

 

 気を失っていたハンクが目を覚ますと、自分がマニーに引きずられ、ここは民家の庭である事に気づきます。とうとう生者と死体の立場が逆転したやんけ。しかも、どうやら写真の女性<サラ>その人の家っぽい。そこにズカズカと入り込んで大声で助けを求めようとするマニー。自分たちは浮浪者そのものの見た目で不審人物。ちょっと待て!と必死に止めるハンクですが、マニーがそんな事聞くはずもなく、庭先で乱闘になります。この乱闘がまた可愛らしいっていうかブロマンス的描写だな…とか思うんですけど…。マニーの台詞が

「人間誰しも多少は醜いだろ。そうだ、多分、俺たちは皆醜い、死にゆく糞袋だ。そして必要なのは、それでもいい、って言ってくれるたった一人なんだ。そうなれば世界は歌と、ダンスと、オナラに満ちて、少しだけ孤独から逃れられる」

生きるとは何か、自分の名前以外のことを何も知らなかったマニーがここまでの成長を……。二人はくんずほぐれつしてるところを幼女に発見されてしまいます。

「ハロー、あんたたち、ハロウィンの仮装してるの?」

f:id:AyakA:20161019021142p:image↑マニーがハンクを抱え起こすカットが、個人的にはキスシーンとかと並んで随一だと思います。コマ送りで超じっくり見てしまったけど凄い。スーパー恋に落ちてる…。

ここできちんと受け答えるのもハンクではなくマニーで*2自分たちがここにいる経緯を、ハンクを救ったスーパーパワーを披露しつつ説明します。嘔吐に、オナラに…ここで既に幼女はウェーキモチワルイ…と反応するんだけど、勃起コンパスがトドメをさす。そりゃお前、事案だわ。ハンクもツッコミ(物理)をせざるを得なく*3、マニーは撃沈します。ギャグみたいに描かれてるけどマニーの気持ちを考えると悲しいシーンだ。そもそも自分の能力が下ネタだということもわかっていないわけだし、アイデンティティそのものをキモチワルイ、と一蹴されたわけなんですよね。初めて、ハンク以外の人間に出会って。やっぱり現世の風当たりは厳しいよ!

そこに、幼女の母親登場。そう、写真の女性、サラです。人妻なだけではなく、子持ちかい。girlって言ってたけどまあいいや…。至って普通の<自分ちの庭先に怪我をした見知らぬ不審人物が現れ助けを求められた時の対応>をしてくるサラに対して「ほら、思ってたよりも悪くないだろ?」とマニーに問いかけるハンク。どんだけ酷い仕打ちを想像していたんだ…。しかし、もう、いくら問いかけようと、マニーは反応を示しません。へんじがない。ただのしかばねのようだ。

物言わぬ死体を友達だと言って「それ」に話しかけ続けるハンクを憐れみの表情で見ていたサラですが、彼のスマホから自分の写真が発見され、不審人物の正体が自分のストーカー(実害は与えていなかったけれど、バスで一緒になっただけの女性の本名と住所を突き止め、インスタのアカウントを特定して監視していたわけなので十分キモい)であったことがわかると、ゴミを見るような目つきに変わります。ああ鬱…自業自得だけどさ…。

ちなみにサラが呼んだ警察や救急にハンクが保護され、マニーは死体として死体袋に入れられるシーンでかかるBGMがすごく効果的で、劇中で初めてピアノの人工的な音色が入ってきて*4夢から醒めるような心地になる。

死体は異界では生を取り戻し、生きられる。でも、現世に帰還すれば、死体はただの死体に戻るしかない。幼い少女は、異界の淵に立ち入れる。だからマニーの言葉を受け取ることができた。でも本物のサラの前では、マニーは生きることができない。

ハンクは「人間は愛を手に入れる為に生きる」とマニーに教えた。マニーは「お前は愛を手に入れられなかったから人生から逃げ出した」と指摘した。そんなハンクが唯一手に入れた愛が、マニーだった。それが今、死体袋に入れられ、埋葬されようとしている?それは彼には到底許されざる事だった。という訳で、クライマックス、死体の強奪が始まります。ヤッホー!ヤケクソ気味!

すっかりただの死体に戻った(最初から死んでるけど)マニーを連れて、まるで映画を逆再生するかのように、ハンクは森に逃げ込み、最後は海辺へ到達する。警察やマスコミ、そしてハンクの父親がハンクを追い森の中へ、並行して幼女もマニーを追い、サラと旦那さんもその後を追う、とラストで出てきた現世の住人全員が介入してくることになるのですが、ここで皆さんが目撃するのが、前半で出てきたバスやレストランなどの恋愛ごっこのセットの痕跡。もう、あっちゃーーーー、って感じですよね。ストーカーターゲット女性の自宅のそんなに近いところでやっちゃってたかー!しかもこの醜い舞台芸術は明らかにサラのインスタの写真を模して作られていることが分かる。もうたった今死体と逃げてる主人公、何の言い訳もできないサイコパスですよ。逃げている最中のハンクの動作も、あからさまに性行為の腰振りをしたりしていて(もちろんマニーに向かってだよ)、どれだけ周りをドン引かせれば気が済むのだ…となる。私は面白いけどもな。

追い詰められて水際。

「僕はただ君に、人生の全てを与えてやりたかったんだ、誰もが経験することを。そして君に会うまでは、僕にはそんな資格ないと思っていたこと。皆僕らを笑い、悪口をささやくだろうけど、それもどうでもいいんだ。お願いだから、死なないでくれよ

「ちょっと、あんたがあれを全部やったのね?」

「そうだ。僕らがやった。二人で。僕たちは歌って、踊って…最高だったよ」

「なんてこと…」

「君たちも皆来れたらよかったのにね。君たちも見られたらよかったのに。僕たちは見せてあげるべきだよね」

 クライマックスで最高のヤバさを見せつけてくれる主人公たまらない!!死体を愛おしそうに見つめ、死ぬな、死ぬな、って言っている姿を周りがドドドドン引きで見ている構図が素晴らしいです。

サラにしてみたら、自分のストーカーかと思ったらゲイ?というかネクロフィリア?どういうことなの?何なの?とにかく超絶にキモい今すぐ記憶を消去したい特に娘の記憶から!!っていう感じだと思うんですけど、それがそのまま劇中最後の台詞である

What's the fuck?

 に現れていると思いました。ラスト、ハンクは何事かをマニーの耳元で囁き、マニーは微笑みながら海へと還っていく、オナラジェットで…。これが、美しい、この映画の最後っ屁です。それでもサラの娘ちゃんは無邪気に笑い、ハンクの父親もうっすらと笑みを浮かべているのが、すごく、この映画の救いだな、と感じました。

これ気づいたの本当に今なんだけど「あなたがやったのね?」「いや僕たち二人がやった」に対して最後に再度「僕(一人)がやりました」って言い直したのかとずっと思ってたけど、「屁をこいたのは僕です」という様にも捉えられるんだ…。すごい、天才かよ脚本…。

 

美しい映画だったなぁ。脚本が良すぎて、名台詞しかない。どのシーンも一番を選べないほどに大好きなのですが、やっぱりモンタージュ前のバスのシーンが好きです。二人が恋に落ちることを許して、ゲイ屍姦映画を産み出してくれて、本当にありがとう、ダニエル、ダニエル、ダン、ダノ。心からありがとう。

 

  

とりとめのない雑文にお付き合いいただきありがとうございます。そもそも、こういう細々した感想普段ならTwitterでちまちま呟いているのですが、日本公開未定の作品なので、どうしても感想は吐き出したいけれど、ネタバレはしたくない、という気持ちで、仕方なくブログ記事にしただけです…。結果、普段Twitterにズボズボで如何に文章をまとめる能力が損なわれたかよくわかるエントリになってしまいました、すいません。もしも何かあったらtwitter@ayakatにでも投げてください…とりあえず今、この映画で語り合える相手がいないのが…つらい…

*1:本物の熊とトレーナー連れてきて撮影しててヒエッてなる

*2:前半の無人島脱出後のハンクの叫びと対になってると思われる

*3:ハンクくん、びっくりしてマニー殴ったり、野生の熊を素手ではたいたり、勃起ちんちんはたいたり行動が迂闊すぎてかわいい

*4:今までのBGMほぼアカペラ肉声だったり、手拍子とか箱を叩いてリズムをとる等のプリミティブな音しか使ってこなかったのに